大石を担ぐ即道坊と常楽寺の和尚
どんな伝承か
春のある日、大霧山から流れる三沢川沿いの山道を、長さ五尺ほど、百五、六十貫はありそうな油石を軽々と肩にした男が歩いてきた。驚いた人々がぞろぞろと後をついて行くのを、常楽寺の和尚が寺の石垣の上から眺めていた。男が上田野の即道坊だと知った和尚は、坂を駆け下りて群衆に割り込み、上田野が火事だと告げた。即道坊は石を放り出し、天狗かと思うほどの速さで走り去った。慌てさせたのも本人のためと笑う和尚の頼みで、若者たちが天秤棒を使い四人がかりでようやく石を寺まで運んだ。その石は今も寺の石段に据えられているという。
原典より
暖かな春の日射しをあびながら、 の草は萌えはじめ、あたりの山々もうっすらと 色に芽吹いております。—— 秩父の伝説と方言 より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
秩父の伝説と方言
『秩父の伝説と方言』は、秩父市教育長鶴沢福松の序を付し、編集委員が執筆整理にあたって編んだ秩父地方の伝説と方言の集成である。秩父市と秩父郡に伝わる伝説を集め、武甲山麓のジジイ・ババア石、橋立鍾乳洞の悪龍、畠山重忠や坂上田村麻呂にまつわる話、伐ると祟る天狗松などを語り口調で記す。伝説は石・水・塚・屋敷跡・山と人物・地名・社寺および城跡・木に関する八つの部に分け、話によっては他地方の類話を注記する。