即道坊が富士から袂で運んだ爪彫石
どんな伝承か
秩父の荒川上田野にある爪彫石は、奇人として知られた即道坊が、富士山から袂に入れて運んできたと伝えられ、袂石(タモトイン)とも呼ばれる。直径九十センチほどの油石で、表面の中央から左回りに願い事や由来、歌などが刻まれており、享保二年正月元旦の日付がある。文字は浅い彫りで読み取りが難しく、これを正しく読める者は即道の生まれ変わりだと言われている。『新編武蔵風土記稿』によれば即道坊は元禄年中の村民六兵衛で、剃髪して即道と名乗り、江戸へ日帰りで往復するほどの俊足だったといい、老後に贄川村の常明寺で入定したが、穴を開けてみると空の棺しかなかったという。
原典より
爪彫石は奇人即道坊が富士山から袂に入れて運んで来たという伝えがある。—— 埼玉県伝説集成——分類と解説 上(韮塚一三郎・埼玉県伝説集成) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
埼玉県伝説集成——分類と解説 上(韮塚一三郎・埼玉県伝説集成)
『埼玉県伝説集成――分類と解説 上』は、韮塚一三郎が埼玉県内の伝説を類型ごとに集めて編んだ伝説集の上巻である。片目の魚、化かす狐や狸、松・杉などの樹木、石や岩、ダイダラ坊と山、清水・渕・池・井戸にまつわる県内各地の伝説を、郷土誌や地誌、『埼玉史談』などの文献と、地元の資料提供者や話者の報告から採って収める。各話に所在地と出典を添え、話型ごとに〈解説〉を置いて全国の類例と信仰の背景を論じ、[参考]文献を挙げる。