富士上空の三重の瑞雲と湖上の夜の虹
どんな伝承か
ある年の二十九日の午前十時ごろ、すでに五、六回も雪をかぶった富士山の上空に、三重の瑞雲が五分ほどたなびき、まるで三階松が現れたような神々しい眺めとなった。富士山の三重の雲は数十年来なかった珍しい現象で、ちょうど麓では内務省の田村博士らが国立公園の区域を決める仮杭打ちをしていたため、何かのめでたい兆しだろうと噂された。これより先の九月九日の夜には、河口湖の南岸の畳岩付近から北岸の産ヶ崎まで約二十町にわたって、湖の上に夜の虹がかかった。雨上がりの雲を破って十二ヶ岳の上の月の光が差したもので、湖に夜の虹が出たのは初めてだと不思議がられたという。
原典より
この日頃、もう五、六回も雪の白衣をまとった富士の霊山に、二十九日の午前十時頃、約五分間にわたって、三重の瑞雲がたなびきかかり、まるで三階松のあらわれたような神々しき美観を呈した。—— 日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著)
『日本怪奇集成-明治大正昭和篇』は、富岡直方が編んだ怪奇実話集である。明治元年から昭和七年までに各地で起きた幽霊や狐狸の怪、畸形や奇病、天変や奇瑞、世相の珍事を、当時の新聞・雑誌の記事と筆者自身の聞き書きから集めている。明治・大正・昭和の三篇に分け、話ごとに年月を掲げて通し番号を振り、新聞記事を引いたうえで紙名を末尾に添える形を基本とする。