松の木に注射をした狐憑きの医者
どんな伝承か
昔、草加宿に藤波という医者が住んでいた。ある晩遅く、急病人が出たので往診してほしいと迎えが来て、人力車に乗って出かけた。ところが夜明け近くになっても帰らないので方々を探すと、この医者は松の木に向かってしきりに注射をしていた。人力車夫のほうも、膝掛けの毛布を肥溜にかぶせて「暖かくてよい」と手をかざしていたという。狐に化かされたのである。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
埼玉県伝説集成——分類と解説 上(韮塚一三郎・埼玉県伝説集成)
『埼玉県伝説集成――分類と解説 上』は、韮塚一三郎が埼玉県内の伝説を類型ごとに集めて編んだ伝説集の上巻である。片目の魚、化かす狐や狸、松・杉などの樹木、石や岩、ダイダラ坊と山、清水・渕・池・井戸にまつわる県内各地の伝説を、郷土誌や地誌、『埼玉史談』などの文献と、地元の資料提供者や話者の報告から採って収める。各話に所在地と出典を添え、話型ごとに〈解説〉を置いて全国の類例と信仰の背景を論じ、[参考]文献を挙げる。