牧山の坂の野ギツネ憑き
どんな伝承か
戸畑区天籟寺は、大正の初めごろ八幡製鉄所の増設で人口が激増し、農家は野菜作りにも力を入れて車力で市場へ運んだ。当時四十歳ほどの某女も、夫の車力の後押しをして八幡の市場へ行った。牧山の坂を登るとき、軽かった車が急に重くなったので夫が振り返ると、妻は他人の車を後押ししていた。日ごろしないことなので不審に思っていると、家に帰るなり妻はにわかに発熱した。入れ薬も効かず、医者にも原因がわからず、布団を頭からかぶって寝ているばかりであった。ある日、見舞いに来た人が布団をめくると妻が舌をペロリと出したので、「こりゃ野ギツネの仕業」と見破った途端、キツネが落ちたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
北九州市史 民俗(北九州市・北九州市史)
『北九州市史 民俗』は、北九州市が編んだ市史の民俗編である。ここに収めるのはその第三編「信仰伝承」第一章「信仰」の第二節以降で、門司・小倉・若松・八幡・戸畑の各区に伝わる聖地と忌地、神仏信仰、神事と法会、巡礼、巫者・祈禱師、信仰集団、狐憑きや犬神などの憑霊・霊異現象を記す。節ごとに地区と地名を挙げて事例を並べる編み方で、祟る石や産女石、落人の墓なども忌地の項に見える。