藤九郎谷の音九郎に憑かれた男
どんな伝承か
大正の初め、黒崎の祭りの帰りに大谷の藤九郎谷でキツネから土産をねだられ、そのまま憑かれてしまった男がいた。以来この男は、道に石や縄、脱ぎ捨てのワラジが落ちていると、いちいち足で端へ寄せながら歩いた。鶏肉を好んだが、家人が先に食べた鶏は必ず見抜いて口をつけず、魚を欲しがるときも望みどおりの品が戸畑で見つからないことはなかった。ある夏の夜に狐落としを試み、大きなスイカと鶏一羽を土産に渡す約束が整う。使いを頼まれたのは、たまたま覗いていた男だった。翌晩、言われたとおり山の頂に登って藤九郎谷の音九郎ヨーイと三度叫び、品を置いて駆け戻ったが、翌日見に行くと土産は手つかずのままだった。土産が消えなければキツネは離れず、男は生涯憑かれたまま世を終えたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
北九州市史 民俗(北九州市・北九州市史)
『北九州市史 民俗』は、北九州市が編んだ市史の民俗編である。ここに収めるのはその第三編「信仰伝承」第一章「信仰」の第二節以降で、門司・小倉・若松・八幡・戸畑の各区に伝わる聖地と忌地、神仏信仰、神事と法会、巡礼、巫者・祈禱師、信仰集団、狐憑きや犬神などの憑霊・霊異現象を記す。節ごとに地区と地名を挙げて事例を並べる編み方で、祟る石や産女石、落人の墓なども忌地の項に見える。