天城の山男は消えつつある
どんな伝承か
五月十九日、駕籠を雇って天城を越した。青葉の盛りで、藤は少なく躑躅はあり、石楠花は盛りで人家にも植えている。閑古鳥が鳴いていた。御料地の中には色々の人が住んでいるが、五万分一図を見るとこの辺はどの村にも属していない。峠の近くにも二三の人家があり、木を挽いていた。天城は二十五、六年前までは暗い森林であったが、追々に伐って明るい山となった。ただし大鍋の奥より猫越に越える所などは今も木深く、蛭も少しおり、猿などもいたずらをするという。山男の消息はすでに絶えつつある。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第3巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第3巻』は、柳田国男の紀行・日記・随筆を集めた著作集の一巻である。相模・武蔵の村々を歩いた「水曜手帖」、昭和二十三年八月の自序を持つ「北国紀行」、明治四十三年の「五十年前の伊豆日記」、国際聯盟の委任統治委員会に勤めた大正十一年の「瑞西日記」と「ジュネーブの思ひ出 その他」を収める。後半の「菅江真澄」は昭和十七年二月の序を付け、真澄の著述と旅の跡を年を追ってたどり、写真解説を添える。