修善寺の大患で漱石が漂った縹渺
どんな伝承か
夏目漱石は四十三歳のとき、胃潰瘍の療養のため伊豆の修善寺温泉に滞在し、五百ccにおよぶ大吐血をして生死の境をさまよった。『思ひ出す事など』によれば、大吐血から五、六日たつころ、彼は毎日のように特別な精神の状態に入るようになり、やがてその訪れを前もって予期するまでになる。漱石はそれを縹渺という言葉で言い表し、霊が細かな神経の先まで行き渡って肉体を軽くするようだと記した。床の下に水が回って畳が浮くように、心も体も蒲団から浮き上がって漂っていたともいう。強烈ではないが、ドストエフスキーが語った歓喜に近いものだったと彼は考えた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
臨死体験(立花隆)(立花隆・臨死体験・ノンフィクション)
『臨死体験(立花隆)』は、立花隆が著したノンフィクションである。一九九一年三月放送のNHKスペシャルのための取材を出発点に、日本と欧米の体験者の証言、キュブラー・ロスやムーディら研究者への聞き取り、「文藝春秋」連載中に寄せられた体験談を収める。体外離脱、光の体験、文化による体験の差、感覚遮断や脳の仕組みを章ごとに論じ、末尾で現実体験説と脳内現象説を比べたうえで、著者は基本的に脳内現象説に立つと述べる。