浮き沈みの果てに見た赤い太鼓橋
どんな伝承か
港区に住む森貝光子は、十九歳のときに肋膜炎にかかり、高熱が一週間続いた。熱を下げる薬もなく寝ているほかなかったが、あるとき体がふいに浮き、寝床から部屋の上の隅へ吸い上げられたかと思うとまた下りてきた。まるで昇降機に乗っているようで、それが七、八回も繰り返されたのち、穴の中へ吸い込まれた。気がつくと目の前に赤い太鼓橋があり、あたりは美しい花園で、音楽も聞こえた気がしたという。橋の下の川には幼いころ遊んだ友達が大勢いて、着物の裾を引き、よい所へ連れていくから一緒に来いと誘った。新しい下駄でなければ行かないと言い返しているうちに目が覚め、枕元では家族が泣いていた。
原典より
小口さんの場合は、抵抗しても浮き上がってしまったのだが、頑張り抜いて体の中に戻った人もいる。—— 臨死体験(立花隆)(立花隆・臨死体験・ノンフィクション) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
臨死体験(立花隆)(立花隆・臨死体験・ノンフィクション)
『臨死体験(立花隆)』は、立花隆が著したノンフィクションである。一九九一年三月放送のNHKスペシャルのための取材を出発点に、日本と欧米の体験者の証言、キュブラー・ロスやムーディら研究者への聞き取り、「文藝春秋」連載中に寄せられた体験談を収める。体外離脱、光の体験、文化による体験の差、感覚遮断や脳の仕組みを章ごとに論じ、末尾で現実体験説と脳内現象説を比べたうえで、著者は基本的に脳内現象説に立つと述べる。