洛陽で被弾し河原の父を見る
どんな伝承か
著者のもとに寄せられた日本人の臨死体験には、戦争によるものが少なくない。江東区に住む新津重雄は、昭和十九年、河南省の洛陽を攻めていたときに敵弾を頭に受けた。弾は鉄帽を貫き、鉄帽を持ち上げると血が顔を伝って軍衣を染めたという。出血がひどく、地中へ引き込まれるように意識が遠のいては頭痛で戻るということを三十分あまり繰り返し、その間、遠足や叱られた日、浅草の祭りといった子供のころの光景が次々に浮かんでは消えた。やがて完全に気を失い、野戦病院へ運ばれるまでの一時間半、河原に仰向けに倒れて水音を聞き、四年前に死んだ父が対岸から手招きするのを見た。這い寄ろうとしても近づけなかったという。
原典より
戦争という異常な状況は、臨死体験を生みやすいのか、私のところに寄せられた日本の体験談の中にも、戦争による体験が少なからずある。—— 臨死体験(立花隆)(立花隆・臨死体験・ノンフィクション) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
臨死体験(立花隆)(立花隆・臨死体験・ノンフィクション)
『臨死体験(立花隆)』は、立花隆が著したノンフィクションである。一九九一年三月放送のNHKスペシャルのための取材を出発点に、日本と欧米の体験者の証言、キュブラー・ロスやムーディら研究者への聞き取り、「文藝春秋」連載中に寄せられた体験談を収める。体外離脱、光の体験、文化による体験の差、感覚遮断や脳の仕組みを章ごとに論じ、末尾で現実体験説と脳内現象説を比べたうえで、著者は基本的に脳内現象説に立つと述べる。