三度の呼び声で戻された三途の川
どんな伝承か
昭和四十四年、六十二歳のときだったという。ある日、寺へ行こうとして家を出ると、戻れ戻れと太い声で三度呼ばれた。戻って家に入るなり倒れ、足の先から冷たくなっていく。死ぬなと思っているうちに川のところへ出た。果てしなくきれいな川で、小石の上をちょろちょろと水が流れていた。そこへ白い着物の五十くらいの男が来たので連れていってくれと頼んだが、返事もせず自分だけ渡ってしまう。腹を立てて裾をからげ、草履を脱いで川に片足を入れると、氷水のような冷たさが体を突き抜け、そのとき息を吹き返した。すでに脈は絶えていたが、家の者が湯たんぽとストーブで温め、声のかぎり呼んでくれたのだという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・2003年(平成15年))
『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』は、松谷みよ子が編んだ現代の民話の聞き書き集で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。一九七八年に発刊された『民話の手帖』を通じて全国から寄せられた回答を中心に、臨死体験、死の知らせ、寺へ来る死者、生まれかわりの話を収める。「あの世へ行った話」「死の話」「生まれかわり」の三章の冒頭に編者の論考を置き、細目ごとに所在地・話者・出典を添えた類話を並べる。