見殺しにした船を襲った吹雪の遭難
どんな伝承か
明治三十五年頃、指ヶ浜の共同墓地で大勢の人声がして火の玉が飛ぶのを、村の者たちが見たという。まもなく指ヶ浜の十数戸から乗り組んだ船が暗礁に打ち上げられ、一人残らず死んだ。船が転覆したとき、通りかかった別の船に、助けてくれ、せめて兄だけでも弟だけでも助けてくれと声のかぎり叫んだが、その船は見ぬふり聞かぬふりをして素通りしたのだと伝わる。二十三年後の十一月、語り手が寺間の葬式に行った晩はみぞれ雪であった。翌朝、その見殺しにした船が吹雪の中でなわばかりという岩に衝突し、乗員がほぼ全滅していた。以後、出島の船宿では毎晩、死んだ者たちが炉端をまいて火にあたる音が聞こえたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・現代民話考(ちくま文庫)・2003年(平成15年))
『現代民話考――偽汽車』は、松谷みよ子が編んだ『現代民話考』全十二巻の第三巻で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。鉄道開通のころ狸や狐が汽車に化けたという偽汽車の話、船幽霊や幽霊船など海の怪談、タクシーの幽霊など自動車や列車の怪談と笑い話を、全国の回答者の聞き書きや新聞・雑誌・書籍から集める。三章それぞれの冒頭に考を置き、話ごとに本文と分布を並べて地名・話者・出典を添える。