沈んだはずの漁船が入港した夜
どんな伝承か
昭和三十二年十二月十三日の金曜日、季節はずれの台風にみまわれ、陸前江の島の東方海上で漁船が遭難沈没し、乗員全員が船と運命を共にした。遺体は発見されなかった。その翌年、ある漁船が風浪のため港に避難仮泊していたとき、沈没したはずのその漁船が賑やかな歌声とともに入港し、近づいてきた。あれは幽霊船だから行ってはいけないと止められたのもきかず、一人の漁夫が、やあ、みんな助かっていたのかと言ってその船に乗り移った。とたんにその船はかき消すように見えなくなり、漁夫は海中に落ちてそのまま死んだという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・現代民話考(ちくま文庫)・2003年(平成15年))
『現代民話考――偽汽車』は、松谷みよ子が編んだ『現代民話考』全十二巻の第三巻で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。鉄道開通のころ狸や狐が汽車に化けたという偽汽車の話、船幽霊や幽霊船など海の怪談、タクシーの幽霊など自動車や列車の怪談と笑い話を、全国の回答者の聞き書きや新聞・雑誌・書籍から集める。三章それぞれの冒頭に考を置き、話ごとに本文と分布を並べて地名・話者・出典を添える。