駿州奥仙俣の草原を割る山男
どんな伝承か
山中笑が前年に駿州田代川の奥へ行ったとき、奥仙俣の杉山忠蔵という人が、父から聞いたといって語った話である。父は若い時から猟が好きで、毎度鹿を追って山奥に入ったが、真に恐ろしくまた不思議だと思ったことは生涯に二度しかない。一度は山中の草原が丸太でも曳いて通ったように一筋倒れ伏し、前の山の樹木もまた一筋に左右へ分かれて次第に頂上へ押し登って行ったこと。今一度は土の上に非常に大きな人の足跡を見つけ、なお奥へ入ると大岩に足を踏み掛けて山陰へ入る大男の後姿を見たことだという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第4巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第4巻』は、柳田国男の著作を集めた定本の一巻である。岩手県遠野の伝承を佐々木鏡石から聞いて書いた「遠野物語」、山に入った人や神隠しを論じた「山の人生」、河童・ひだる神・一つ目小僧・天狗などを扱い妖怪名彙を付す「妖怪談義」を収める。ほかに「山人考」「史料としての傳説」「比丘尼石の話」「山人外傳資料」「『イタカ』及び『サンカ』」「山民の生活」など、山人・漂泊民・妖怪をめぐる論考を併せる。