金手の隠宅で祖母を狙った老猫
どんな伝承か
小田原の藩医緒方梅庵の子梅軒は、正保四年ころ十六歳で、酒匂川を三里ほどさかのぼった金手の里にある祖母の隠宅に詰めて看病していた。祖母に二十年余り影のように付き添う老猫が、ある雨の宵に後足で立ち上がり、熟睡した祖母の喉を狙って飛びかかった。梅軒が刀で斬りつけたが浅手で、猫は雨戸を破って逃げた。以来その家には家鳴りや震動が続いて奉公人は皆去り、猫は梅軒にも幾度も襲いかかった。半年余りたった初冬、寒さと飢えで弱った猫が押し入れの罠にかかり、梅軒が槍で突き伏せると明け方に息絶えた。その毛は銀の針のように逆立っていたという。
原典より
全身の毛はまるで銀色の針のようにさか立っていたと伝えられる。—— 日本の妖怪伝説(小笠好恵・1966年(昭和41年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の妖怪伝説(小笠好恵・1966年(昭和41年))
『日本の妖怪伝説』は、小笠好恵が各地に伝わる奇談・怪談を読み物にまとめた伝説集で、序は昭和四十一年五月付である。浅茅が原の一つ家、四谷怪談、九尾の狐、安達が原の黒塚、道成寺、鍋島の化け猫など、岩手から熊本までの四十五話を、伝えられた形をなるべく崩さずに書き直し、おおむね東から西へ並べる。雨月物語や小泉八雲など書物に拠る話のほか近年の体験談も混じり、一部の話の末にはゆかりの寺社へ行く「順路」を付ける。