犬を飢えさせた百坊の滅びと沈鐘
どんな伝承か
あちこちの寺を回って食を得る坊主を、里では「犬のぞき」「犬の番」と呼ぶ。犬の番とは百坊の犬の意で、昔、道脇寺には百の坊があり、寺に一頭の犬がいて朝夕に観音の百坊を回って食を乞うていた。あるとき百坊の坊主たちが相談して犬に食を与えなかったところ、地が震え火が湧き出て、堂塔はたちまち滅びてしまった。寺の鐘もそのとき火に押し潰され、ごんごんの沼の底に沈んだ。今でも雨の降りそうな頃には「道脇寺恋しや、ぼーん」と沼の底で鳴り響くと言い伝える。
原典より
かなたこなたの寺に寄つて、食を得る坊主を、里の俗に、『犬のぞき』または、『犬の番だ』と言つてゐる。—— 日本伝説叢書 上総の巻(藤沢衛彦・日本伝説叢書・1917年(大正6年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説叢書 上総の巻(藤沢衛彦・日本伝説叢書・1917年(大正6年))
『日本伝説叢書 上総の巻』は、藤沢衛彦が大正六年に編んだ上総国の伝説集である。夷隅・長生・山武・市原・君津の五郡にわたり、地名の由来、社寺の縁起、城と武将の事跡、大蛇や狐つきの怪異、俚謡や民間の風俗を、口碑や『総国誌』などの地誌から集める。巻頭に著者の序と緒言を置き、上総国と郡の名義を説いたのち、郡ごとに町村の所在を添えた見出しで一話ずつ並べる。