茗荷づくしで物忘れした宿の女房
どんな伝承か
あるところの宿屋に、欲深な女房があった。茗荷を食べると物忘れをすると聞いていたので、泊り客に食わせて財布でも置き忘れさせようと、旨そうな客に茗荷づくしの料理を出した。皿の物も椀の物も、旨煮も焼き物もみな茗荷ばかりで、強いて食べさせられた客は驚き呆れ、そこそこに宿を立って行った。女房が何か置き忘れていないかと調べたが何も見当たらない。よく考えると、調理の間に自分も茗荷を食っていたので、つい勘定を請うのを忘れ、客も宿賃を払うのを忘れて立ってしまったのであった。慌てて後を追い、出逢う人毎に、年格好はくるくる目が五十、編笠の人間背負った風呂敷包はどこへ行きましたか、と尋ね歩いたという。
原典より
或るところの宿屋に、欲深な女房があつた。—— 日本伝説叢書 上総の巻(藤沢衛彦・日本伝説叢書・1917年(大正6年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説叢書 上総の巻(藤沢衛彦・日本伝説叢書・1917年(大正6年))
『日本伝説叢書 上総の巻』は、藤沢衛彦が大正六年に編んだ上総国の伝説集である。夷隅・長生・山武・市原・君津の五郡にわたり、地名の由来、社寺の縁起、城と武将の事跡、大蛇や狐つきの怪異、俚謡や民間の風俗を、口碑や『総国誌』などの地誌から集める。巻頭に著者の序と緒言を置き、上総国と郡の名義を説いたのち、郡ごとに町村の所在を添えた見出しで一話ずつ並べる。