主人の赦免に十年通った義士市兵衛
どんな伝承か
上総国市原郡姉崎村の農民市兵衛は、主人次郎兵衛が元禄八年の狩りの事故に連座して伊豆大島へ流されると、残された老父と子らを養った。娘を他人の奴婢に出して小屋を購い、子を生めば主家に尽くせなくなると考えて妻に暇を遣し、年に二度、素足で江戸へ上って恩赦を願い続けた。宝永二年、我が身を重科に代えて主を赦してほしいと訴え、官吏を感泣させた。褒賞の田と金は旧主の子万五郎に賜るよう願い、翌三年、次郎兵衛は赦されて帰った。市兵衛は正徳四年十一月四日、五十二で没し、姉崎町の妙経寺に葬られ、その墓は義士市兵衛と称される。
原典より
起きて聞け山ほととぎす市兵衛殿。—— 日本伝説叢書 上総の巻(藤沢衛彦・日本伝説叢書・1917年(大正6年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説叢書 上総の巻(藤沢衛彦・日本伝説叢書・1917年(大正6年))
『日本伝説叢書 上総の巻』は、藤沢衛彦が大正六年に編んだ上総国の伝説集である。夷隅・長生・山武・市原・君津の五郡にわたり、地名の由来、社寺の縁起、城と武将の事跡、大蛇や狐つきの怪異、俚謡や民間の風俗を、口碑や『総国誌』などの地誌から集める。巻頭に著者の序と緒言を置き、上総国と郡の名義を説いたのち、郡ごとに町村の所在を添えた見出しで一話ずつ並べる。