富山の南峰に残る伏姫の窟
どんな伝承か
安房郡岩井村大字合戸に、凹字の形をなす二峰があり、富山と呼ばれる。海抜千百二十二尺、北峰には金毘羅の祠、南峰には観世音の堂がある。南峰は房州三方の海が見えることから遠見山ともいい、当国第一の険と称される。山上には国札第十二番、富山福満寺の観音堂があり、本尊の正観世音菩薩は行基の作と伝わる。昔、山が崩れて夜ごと光明を放つのを怪しんで訪ねたところ、観世音の尊像が出現したのでここに安置したという。世に伏姫の窟と呼ばれるのは、この南峰の奥深いところにあり、里見義実の息女伏姫が八房の犬とともに籠ったと伝え、曲亭馬琴の「南総里見八犬伝」はこれに拠ったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説叢書 安房の巻(藤沢衛彦・日本伝説叢書・1919年(大正8年))
『日本伝説叢書 安房の巻』は、藤沢衛彦が大正八年に編んだ安房国(千葉県)の伝説集である。天富命の渡来や源頼朝・里見氏・日蓮にまつわる英雄伝説を中心に、社寺の縁起、風俗・信仰、船幽霊や一本足の蛸などの特異な伝承を、『安房志』『房総志料』などの地誌や寺伝・口碑から引いて収める。緒言と「安房国と牛」と題する序を巻頭に置き、鋸山から小湊まで各話に所在の郡村大字を添えて土地ごとに並べ、緒言では百八十六種を蒐集したと記す。