通信隊へ下りてきた山犬と狼の群れ
どんな伝承か
昭和十一年の秋、著者は艦隊勤務から再び稚内海軍通信隊に転勤した。通信隊は稚内の町外れの、クサンルとアイヌ語で呼ばれた緑町にあり、その稜線から毎夜犬の遠吠えが聞こえた。近所で農家をする小野寺は、山犬の群れの中に狼が一緒にいるに違いないと教えてくれた。翌十二年の春、電信室の真向いの丘から十二、三匹の山犬の集団が一列になって降りて来て、隊門を入り下士官宿舎へ向かった。空気銃を持って追うと集団は一斉に振り向いた。中程に毛並の荒い変わり種が二頭おり、歩き方や形から狼に違いないと感じたという。やがてボス犬の合図で集団は引き返し、二頭の狼は腰を落として五、六歩走っては首を伸ばして周りを見た。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 10 狼・山犬、猫(松谷みよ子・現代民話考)
『現代民話考 10 狼・山犬、猫』は、松谷みよ子が日本民話の会の『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞き書きで全国から集めた話を編んだ現代民話の資料集である。明治以降を目安に、狼への畏れと信仰、送り狼や千匹狼、化け猫や猫の踊り、戦中の猫の供出、水洗トイレを使う猫までを収める。序文と各章の前文に続いて「狼・山犬」「猫」の二章を主題別の節に分け、各話例の後に類話の採集地・話者・出典を「分布」として並べる。