牙を抜いた礼に届いた大猪
どんな伝承か
話者の萬谷史郎が子どもの頃に聞いた話である。奈良県吉野郡東吉野村では、狼は恐ろしい獣でありながら、恩義をよく弁えていたという。ある月夜、狼が村の在所へやって来て、しきりに鳴いてやまなかった。訝しんで覗いてみると、猪を食ったせいで歯に骨が刺さっていたらしい。そこで「噛みつかぬと約束するなら牙を抜いてやる」と請け合って抜いてやった。すると翌朝、大きな猪が村の門に運ばれていたと伝わる。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 10 狼・山犬、猫(松谷みよ子・現代民話考)
『現代民話考 10 狼・山犬、猫』は、松谷みよ子が日本民話の会の『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞き書きで全国から集めた話を編んだ現代民話の資料集である。明治以降を目安に、狼への畏れと信仰、送り狼や千匹狼、化け猫や猫の踊り、戦中の猫の供出、水洗トイレを使う猫までを収める。序文と各章の前文に続いて「狼・山犬」「猫」の二章を主題別の節に分け、各話例の後に類話の採集地・話者・出典を「分布」として並べる。