漆ヶ淵の女神と与三次の殺生禁断
どんな伝承か
福井市内に伝わる漆ヶ淵の伝説である。勝見川(吉野川)がかつて観音町を流れ、俗に蘆田屋敷と呼ばれるあたりで足羽川に合わさっていたころ、今の豊島下町の辺りは漆ヶ淵と呼ばれる一面の水たまりだった。与三次という男がこの淵で魚を釣って暮らしていたが、ある日まったく釣れず、昼過ぎに居眠りを始めた。すると夢に女神が現れ、今すぐたくさんの獲物を授けるから、それを元手に商売を始め、以後はこの淵で魚を捕らないようにと告げた。目覚めると無数の魚が浮いていた。それから与三次は漆ヶ淵に殺生禁断の札を立てたという。
原典より
夢の告げに、女神が現はれて、今いつ時にたくさんの獲物を與へるから、これを資本にして商賣をはじめ、以後はこの淵で魚をとらぬやうにといふのである。—— 福井縣鄕土誌 民間傳承篇(中塩清之助(編)・福井縣鄕土誌・1939年(昭和14年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
福井縣鄕土誌 民間傳承篇(中塩清之助(編)・福井縣鄕土誌・1939年(昭和14年))
『福井縣鄕土誌 民間傳承篇』は、福井市立実科高等女学校の郷土誌第二輯として教諭中塩清之助が編み、昭和十四年二月付の学校長金岡正孝の序を巻頭に置く。丹生郡の名、哭女、越前萬歳、仏の舞、幸若舞、猫塚、隠れ里、子育て幽霊、愛発の関、弁慶譚、八百比丘尼、水の神女譚を、古文献や他地方の類例と照らして論じる。生徒が集めた県下の昔話は類話をA・Bなどに分けて並べて解説を付し、校正者大村四朗の跋を添える。