恋人に化けて通った半面マダラの古狸
どんな伝承か
日本橋人形町の両替屋若菜屋の女主人お浜は、一中節の師匠都民中との仲を絶たせるため、娘のお八重を根岸の借家に移して堅物の番頭をつけていた。ところが民中が毎晩忍んで来ると聞き、民中の家へ掛け合いに行くと、母親は息子が得体の知れない病で寝込み、外へ出ていないと言う。思い当たったお浜は神田お玉ヶ池の道場の秋山要助に相談し、腕の立つ門弟二人を借りた。夜更けに窓へ男女の影が映り、一人が斬りかかると男の影は大狸に変じて窓から逃げ、待ち受けたもう一人が斬り伏せた。明かりで見ると顔の半分がまだらの古狸だった。下谷根岸に伝わる話で、この狸を見たという老人が明治の中ごろまで生きていたという。
原典より
家中の者たちが集まって来てボンボリや提灯の光で見ると、そこには半面マダラの古狸が、袈裟がけに斬られて死んでいた。—— 江戸動物民話物語(窪田明治) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
江戸動物民話物語(窪田明治)
『江戸動物民話物語』は、「郷土史・東京」の刊行会を主宰した窪田明治が、東京の郷土史を調べた材料から江戸の民話を選んでまとめた本である。狐や狸、猫、蛇が人を化かし、恩を返し、祟る話を中心に、本郷・王子・向島・麻布・三田など東京各地に伝わる話を収める。狐・狸・猫・蛇・不思議な生き物の五部に分け、一話ごとに舞台となった土地の史跡や寺社の由来、沿革の解説を添え、まえがきとあとがきを付す。