亡くなった夜に玄関で呼んだ早川孝太郎
どんな伝承か
昭和三十二年の暮れ、民俗学者・早川孝太郎が入院先の病院で亡くなった。妻の母は危篤の報を受けて急いで上京したが、病院に駆けつけたときにはすでに息を引き取っていた。母は疲れており、子供だけの留守宅も気にかかったため、一人で武蔵野市の早川家に戻った。するとその夜、玄関先で早川の声がして「おばあちゃん、おばあちゃん」と呼びかけられた。母は疑いもせず「はい、只今」と答えて戸を開けたが、外には誰もいなかった。早川は生前、もし旅先で死んだらきっと戻ってくると語っていたという。長く付き添った妻のもとではなく、母のもとへ帰ってきたのだろうと伝えられる。同じ晩、三河の知人も夢か幻かで早川の急変を知ったと手紙をよこしたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談集 幽霊篇(今野圓輔・今野圓輔・日本怪談集・1969年(昭和44年))
『日本怪談集 幽霊篇』は、今野圓輔が昭和四十四年に編んだ幽霊体験談の集成である。新聞・雑誌・単行本や民俗の報告、編者自身の採集から、影や物音、人魂、生霊、死の知らせ、皿屋敷、戦死者の霊、船幽霊、タクシーに乗る幽霊など、日本各地の人びとが見聞きした怪異を、作家の創作を除き原文を尊重して再録する。十章に分けて各章の頭に編者の解説と注を置き、巻末に産女や子育て幽霊を論じた「幽霊外伝」と木原浩勝の解説を付す。