障子に映って笑った妾の幽霊
どんな伝承か
三〇年ほど前、江戸川べりの借家に住んでいた頃のことだ。元は小旗本の持ち家で、奥に土蔵がつき、庭は始終じめじめしていた。当時八十余歳の老父がある朝、『ゆうべ出た。真夜中に障子がぱっと明るくなり、十八、九の娘の顔が映ってにやっと笑ったので、迷っているなと思い御真言を唱えて拝んだら消えた』と語った。近所の年寄りや大家に聞くと、先々代が本妻と妾を同居させ、妾は狂い死にしたという。老父が見たのはその妾の幽霊だろうと私は判断している。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談集 幽霊篇(今野圓輔・今野圓輔・日本怪談集・1969年(昭和44年))
『日本怪談集 幽霊篇』は、今野圓輔が昭和四十四年に編んだ幽霊体験談の集成である。新聞・雑誌・単行本や民俗の報告、編者自身の採集から、影や物音、人魂、生霊、死の知らせ、皿屋敷、戦死者の霊、船幽霊、タクシーに乗る幽霊など、日本各地の人びとが見聞きした怪異を、作家の創作を除き原文を尊重して再録する。十章に分けて各章の頭に編者の解説と注を置き、巻末に産女や子育て幽霊を論じた「幽霊外伝」と木原浩勝の解説を付す。