竹富島の沖の岩で麻糸をつむぐお化け
どんな伝承か
石垣島の対岸にある周囲十二キロほどの竹富島での話。月の美しい晩、島の東海岸から甲高い女の歌声が聞こえ、青年たちが行ってみると、沖の珊瑚礁の黒い岩の上で、中年の美しい女が黒髪を乱し、朱塗りの盆を抱えて麻糸をつむぎながら歌っていた。人間ではないと悟った青年たちが小石を雨のように投げつけると、女は歌をやめて消えた。それから三年、歌は聞かれなかったが、ある深夜ふたたび同じ岩に現れた女の声はしわがれ、髪は抜け落ち、顔は傷だらけの恐ろしい姿になっていた。また石を浴びせられて海に沈んだ女を思い、青年たちは傷つけたことを悔やんで寂しく笑い合った。
原典より
ところが、三年後の月の美しい深夜、東海岸でお化けの歌が聞こえるというので、青年たちは、こわごわと行ってみた。—— 沖縄怪談集 逆立ち幽霊(伊波南哲) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
沖縄怪談集 逆立ち幽霊(伊波南哲)
『沖縄怪談集 逆立ち幽霊』は、石垣島で育った詩人の伊波南哲が、新聞や雑誌に書いた話と書きおろしを合わせ、沖縄の怪談を物語風に綴った怪談集である。那覇の辻遊廓や一日橋、首里、石垣島・竹富島などを舞台に、遊女や捨てられた女の幽霊、遺念火、キジムナー、お化け封じの術を描き、戦後のタクシー幽霊の噂や東京で起きた位牌の嫁入りの話も取り上げる。題を付けた二十二話のあとに「怪談断片集」を置き、少年時代を語る「果たして幽霊はいるのか」で結ぶ。