紫の風呂敷を抱いて親元へ帰った遊女の霊
どんな伝承か
南国の秋の月が冴えた晩、那覇の辻遊廓の近くで客を待つ車夫のもとへ、一松模様の紺絣を着て紫の風呂敷包みを抱いた二十歳前後の女が来て、ガジャンビラまでと頼んだ。那覇港の対岸の坂を登り、榕樹の角の家で女は降り、すぐ戻ると言って門をくぐった。一時間たっても戻らないので車夫が戸を叩くと、老夫婦が出てきて誰も来ていないという。服装を聞いた母親は辻遊廓に出ている自分の娘だと気づき、車夫は夫婦を乗せて遊廓へ急いだ。娘は今しがた息を引き取ったところで、箪笥には両親への土産の清明茶と煙草を包んだ紫の風呂敷があった。
原典より
さらに、彼女の箪笥(たんす)のひき出しには、紫の風呂敷包みがあって、清明茶と煙草が入っていた。—— 沖縄怪談集 逆立ち幽霊(伊波南哲) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
沖縄怪談集 逆立ち幽霊(伊波南哲)
『沖縄怪談集 逆立ち幽霊』は、石垣島で育った詩人の伊波南哲が、新聞や雑誌に書いた話と書きおろしを合わせ、沖縄の怪談を物語風に綴った怪談集である。那覇の辻遊廓や一日橋、首里、石垣島・竹富島などを舞台に、遊女や捨てられた女の幽霊、遺念火、キジムナー、お化け封じの術を描き、戦後のタクシー幽霊の噂や東京で起きた位牌の嫁入りの話も取り上げる。題を付けた二十二話のあとに「怪談断片集」を置き、少年時代を語る「果たして幽霊はいるのか」で結ぶ。