命乞いした河童の手と下田の人々
どんな伝承か
筑後の柳川の近く、下田という所に住む農夫の厩で、ある晩馬がしきりにいなないた。行ってみると河童が馬を連れ出そうとしている。農夫は河童をつかんで殺そうとしたが、必死に命乞いするので哀れに思い、捕らえた証拠に片手を取り、下田の者はこれから決して水に引き込まないと約束させて逃がした。手は干して紫の袱紗に包み、桐箱にしまった。水に入れるとくるくる回り、その水を飲めば河童に引かれないというので、村人が少しずつ削り取り、ついには形も分からなくなった。下田の人が河童に引かれないことは今も語り草だという。
原典より
そして取つた片手はこれを干して紫色の袱紗に包み桐箱に入れて保存した。—— 炉辺叢書 筑紫野民譚集(及川儀右衛門・1923年(大正12年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
炉辺叢書 筑紫野民譚集(及川儀右衛門・1923年(大正12年))
『炉辺叢書 筑紫野民譚集』は、及川儀右衛門が筑紫野で暮らした二年ほどの間に、土地の故老や下宿の老婆から聞いた話、教え子が書き送ってきた物語を文献とも照らしてまとめた民譚集である。筑後を中心に筑前・肥前・肥後・豊前・豊後の河童、怪火、長者の話、神事と歌舞、山と水の伝奇、狐狸や幽霊の怪異を六篇に分けて収め、多くの話に古記録を引いた〔註〕を添える。序の日付は大正十二年六月である。