早鞆の瀬戸でワカメを刈る大晦日の神事
どんな伝承か
豊前の門司にある和布刈神社では、毎年旧暦十二月の大晦日の夜、古式による和布刈の神事が行われる。起源ははっきりしないが、和銅三年に始まったと記す書もある。神殿前の早鞆の海の潮が引くのを待ち、神官が大松明をともして長柄の鎌でワカメを刈り、白木の桶に入れて神に供える。昔は神官が海に入っても衣が少しも濡れなかったと信じられ、灯火を見ることさえ恐れ多いとして、大晦日には雨戸の破れ目まで繕ったという。今では闇の中に鈴の音と松風が響くこの神事を、誰でも拝観できるようになった。
原典より
往古は神官が水中に入つてこの神事を行ふけれごも毫もその着衣が水に濡れなかつたこ信ぜられ この祭式は燈火を拝するさへも畏しこして大晦日には雨戸の破目を繕つたこ言ふここである。—— 炉辺叢書 筑紫野民譚集(及川儀右衛門・1923年(大正12年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
炉辺叢書 筑紫野民譚集(及川儀右衛門・1923年(大正12年))
『炉辺叢書 筑紫野民譚集』は、及川儀右衛門が筑紫野で暮らした二年ほどの間に、土地の故老や下宿の老婆から聞いた話、教え子が書き送ってきた物語を文献とも照らしてまとめた民譚集である。筑後を中心に筑前・肥前・肥後・豊前・豊後の河童、怪火、長者の話、神事と歌舞、山と水の伝奇、狐狸や幽霊の怪異を六篇に分けて収め、多くの話に古記録を引いた〔註〕を添える。序の日付は大正十二年六月である。