重兵衛さんが語った怪火とえんこう
どんな伝承か
幼い寺田寅彦にとって、近所の重兵衛さんの家は怪談とおどけ話の宝庫であった。重兵衛さんの持ち話はそう多くはなく、北山の法経堂に現れる怪火の話、荒倉山の狸が三つ目入道に化けたのを武士が退治した話、しばてん(木の葉天狗)と相撲を取る話、えんこう(河童)を釣る話などであった。えんこうの話では、江ノ口川の橋の欄干で夕涼みをしていると水中から手が伸びて肛門を抜きに来るので、腰に鉄鍋を当てて待ち構え、触れた手首を掴んで捻じるが、いくら捻じっても際限がない。その時刻、十町も下流の河口では一匹のえんこうがぐるぐる廻っていたという。同じ話が何度繰り返されても、そのたびに子供たちを喜ばせた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
怪異考 - 化物の進化(寺田寅彦)
『怪異考 - 化物の進化』は、物理学者寺田寅彦が大正九年から昭和十二年にかけて雑誌・新聞に書いた随筆と談話を集めた本である。土佐の「孕のジャン」や濃尾のギバを地鳴りや空中放電で説く「怪異考」、昔の人が化物を自然現象の説明に用いたことを論じる「化物の進化」のほか、人魂、狸の腹鼓、厄年、夢判断などを科学者の目で語る。各篇の末尾に初出の年月と掲載誌名を記すが、「狸の腹鼓」だけは「単行本未収録」とのみ記す。