茶を飲んで身ごもった娘と竜昌寺
どんな伝承か
羽前国西村山郡西山村水沢の百姓家に、銭を乞いながら諸国をめぐる六部が立ち寄った。先祖の命日だからと読経を頼まれ、六部は仏壇の前に座した。その姿に心を惹かれた娘のけいは、六部が去ったのち、飲み残しの湯呑み茶碗の底の茶を飲んだ。するとたちまち身重となり、十月十日で男の赤児を産んだ。その日、戸外に六部の読経が聞こえた。事情を聞いた六部が経文を唱えると赤児は消え、茶碗の底に一滴の茶が浮かんだ。けいは家を駆け出し、一里余を走って森の沼まで来ると蛇に化して入水した。六部は不憫な女よと言い、沼のほとりに寺を建てた。沼を竜頭、寺を竜昌寺という。
原典より
羽前国西村山郡西山村水沢のある百姓家に六部(銭を乞いながら諸国をめぐる巡礼)が立ち寄った。—— 東北怪談の旅(山田野理夫・1974年(昭和49年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
東北怪談の旅(山田野理夫・1974年(昭和49年))
『東北怪談の旅』は、山田野理夫が昭和四十九年に編んだ東北地方の怪談集である。青森・秋田・岩手・宮城・山形・福島の六県に伝わる妖怪や幽霊の話、飢饉と間引にまつわる話、江戸時代の奇談などを、一番から一六三番までの短い話として収める。各話の末尾に県名を記し、恐山や飢饉の記録にふれて東北の怪談と怨念を結びつけるまえがきと、怪談観や霊能者をめぐる回想を記したあとがきを付す。