天狗が手を貸す古峰神社の膳運び
どんな伝承か
大正五年の夏、著者の知人T氏が避暑の旅で古峰ヶ原へ参る途中、樵の夫婦と道連れになった。樵の話では、古峰ヶ原の天狗は名高く、山の大木が風もないのに急に折れたり、ねじ倒されたりすることがあるという。また古峰神社では数百人の参籠者が一緒に食事をするが、膳を配るときには天狗が手を貸すという。台所で膳を三つ四つ積み重ね、修行を積んだ袴姿の若者が両手で一番上の膳を持って気合いをかけて立ち上がると、下の膳までそろって持ち上がり、そのまま食堂へ運ばれていく。これは有名な怪事で少しも疑う余地はないと樵は語ったという。
原典より
臺所で膳を三ッ四ッ積み累ね、夫を修行の積つた袴着の若い男が左右の手に、上端の膳を持て、エッと氣合ひをかけて腰をのして立上ると、多くの膳が、上部の膳について一緒に上つて、食堂へ無難に運ばれ行くのださうなが、…—— 幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談)
『幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵』は、岡田蒼溟による霊怪の事例集である。祟る石、出雲の瀧姫行者、神西湖の妖怪、但馬の抜け首、黄金の精、海の牛鬼、天狗などの怪異を、著者自身の見聞や知人の談話、古い文書からの移載によって集め、明治・大正期の出雲や松江周辺の事例を多く含む。項目によっては【解題】や註を添え、事例の後に「第二編」と附録の「天狗考」を続け、巻末の「解説の欄」で生霊・疫神・物体の飛来などを心霊研究の立場から論じる。