桔梗の浴衣の女と写らぬフィルム
どんな伝承か
女優の白川和子が語った体験。昭和四十四年の冬、ロケで泊まった塩原温泉の宿でのことだという。眠って間もなく息苦しさに襲われて目を開けると、部屋の隅に若い女がぼんやり立っていた。髪は短く、白地に桔梗を散らした浴衣を着て、悲しげな表情をしている。思わず声をあげると、その姿は薄れるように消えた。翌日、同じ部屋で撮影をしたところ、回したフィルム四百フィートには何ひとつ像が残っていなかった。宿の女中に尋ねると、かつてその一室で駆け落ちした男女が心中を図り、女だけが命を落としていたという。幽霊よりも、その話を聞いたときのほうが背筋が寒かったと結んでいる。
原典より
ロケーション先の塩原温泉の旅館でのこと……………。—— お化けについてのマジメな話(平野威馬雄・1974年(昭和49年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
お化けについてのマジメな話(平野威馬雄・1974年(昭和49年))
『お化けについてのマジメな話』は、平野威馬雄が昭和四十九年に著した幽霊とお化けをめぐる随筆である。自ら主宰する「お化けを守る会」に寄せられた体験談や、大阪の毎日放送のラジオ番組で聴取者が電話で語った話を軸に、前世や霊媒・降霊実験など海外の心霊研究、井上円了の妖怪論、古い記録に見える犬神などの憑きものを取りあげる。体験談から死後の世界、お化けを呼ぶ方法、昔のお化けへと進む八章立てで、巻末にあとがきを置く。