塩町の夜に響く正体不明のばたばた音
どんな伝承か
文久年中、外国打払いで世間が騒がしかった頃、錦見の塩町のすそから砂原・蛤町・散畠・浄福寺の突き抜けにかけて、夜四つ時頃から翌朝未明まで、渋紙を打つような、また大きな円扇を烈しく使うような、ばたばたという音が響いた。秋から冬にかけて鳴り、何の音とも出所とも分からない。山県仙二が友と一夜その元を探りに行ったが、ここかと思えばあそこに聞こえて探しあぐね、なお数夜尋ねてようやく塩町のすそと突き止めた。宇都宮氏の前では東に、小松氏の前では西に音がするので、周布氏の井戸の辺りまで迫ったが、何が入る音かは遂に知れなかった。
原典より
文久年中には外国打払ひするとて世間騒ヶ敷ありけるに、其頃錦見の塩町のすそ、砂原、蛤町、又散畠、浄福寺突きぬきは町にかけて、夜四ツ時頃より翌朝未明迄、渋紙を打つる、又大き円扇を烈しく遺ふが如く、ばたばたと声して、何にかとも…—— 岩邑怪談録(広瀬喜尚(増補:今田純一/続録・編:藤田葆/付録:静間密/昭和版編集:宮田伊津美)・1976年(昭和51年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
岩邑怪談録(広瀬喜尚(増補:今田純一/続録・編:藤田葆/付録:静間密/昭和版編集:宮田伊津美)・1976年(昭和51年))
『岩邑怪談録』は、岩国藩士広瀬喜尚の怪談録に後人の増補と続録を合わせ、岩国徴古館が昭和五十一年に発行した資料集である。岩国周辺で人々が出会った化物・大坊主・生首・怪火・狐狸・天狗倒し・幽霊などの話を収め、藤田葆が編んだ『岩国沿革志』のうちの二冊を底本に、なるべく原文のまま新字に改めて載せる。広瀬の本録に、今田純一の追加、藤田の続怪談録と実事談・変死、静間密の付録五話を続け、巻末に語注を付す。