出立前夜に御城山から落ちた大石と鳴動
どんな伝承か
元治元年七月、岩国の藩主経幹が上京する宗藩に同行するため十五日に出発すると決まり、人心が揺れていた。前夜の十四日、御武具頭人として兵局に宿直していた藤田葆は、夜半過ぎに御城山のあたりで大きな鳴動を聞いた。館の方に異状はなく、しばらくして寺谷の奥でも同じ響きがした。翌朝、桂左仲とともに御武具庫へ行き番人の林嘉右衛門に尋ねると、音は山の上だったという。数人で谷を登ると、畳二枚ほどの大石が榎の脇で止まっており、山の八合目、旧城台の五十間ほど下に抜け出た跡があった。崖でもない所で人の手で抜いたようにも見え、天狗の仕業かと言い合ったという。
原典より
文久三年、有格経幹公ハ宗藩毛利公ノ御名代ニテ、京都御守衛ニテ居ラレシ内、堺町御門御守衛、俄二御免トナリ帰国セラル。—— 岩邑怪談録(広瀬喜尚(増補:今田純一/続録・編:藤田葆/付録:静間密/昭和版編集:宮田伊津美)・1976年(昭和51年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
岩邑怪談録(広瀬喜尚(増補:今田純一/続録・編:藤田葆/付録:静間密/昭和版編集:宮田伊津美)・1976年(昭和51年))
『岩邑怪談録』は、岩国藩士広瀬喜尚の怪談録に後人の増補と続録を合わせ、岩国徴古館が昭和五十一年に発行した資料集である。岩国周辺で人々が出会った化物・大坊主・生首・怪火・狐狸・天狗倒し・幽霊などの話を収め、藤田葆が編んだ『岩国沿革志』のうちの二冊を底本に、なるべく原文のまま新字に改めて載せる。広瀬の本録に、今田純一の追加、藤田の続怪談録と実事談・変死、静間密の付録五話を続け、巻末に語注を付す。