御城山に夜ごと響いた木魚のような声
どんな伝承か
慶応三年、有格公が病に伏していたころ、御城山の寺谷御塔場の上から下口御門の上にかけて、毎晩ポンポンと木魚を打つような声が明け方まで続いた。近寄って聞いても何の声か誰にも分からず、鳴く場所が変わるので鳥だろうとは思われた。禅に通じた永興寺の洪川和尚は、高野山で仏法僧と鳴く鳥の仲間で、衰えた仏法を呼び覚ますため釈尊が遣わし寺の山で鳴かせているのだと説いた。公の病の前兆かと案じる者もいたが、関わりはなかった。数年後、下口の山でまた同じ声がしたとき、ある人が近づいて確かめると、小鳥が朽ち木の穴に嘴を差し込んで鳴き、その空洞に響いて妙な音になっていたという。
原典より
慶応三年、有格公御病気ノ時、寺谷御塔場ノ上ヨリ下口御門ノ上へカケテ、夜々ポンポント木魚ヲ叩ク如キ声シテ、暁マデ止ザルコトアリ。—— 岩邑怪談録(広瀬喜尚(増補:今田純一/続録・編:藤田葆/付録:静間密/昭和版編集:宮田伊津美)・1976年(昭和51年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
岩邑怪談録(広瀬喜尚(増補:今田純一/続録・編:藤田葆/付録:静間密/昭和版編集:宮田伊津美)・1976年(昭和51年))
『岩邑怪談録』は、岩国藩士広瀬喜尚の怪談録に後人の増補と続録を合わせ、岩国徴古館が昭和五十一年に発行した資料集である。岩国周辺で人々が出会った化物・大坊主・生首・怪火・狐狸・天狗倒し・幽霊などの話を収め、藤田葆が編んだ『岩国沿革志』のうちの二冊を底本に、なるべく原文のまま新字に改めて載せる。広瀬の本録に、今田純一の追加、藤田の続怪談録と実事談・変死、静間密の付録五話を続け、巻末に語注を付す。