樫立沖に現れた亡魂船
どんな伝承か
明治二十年ごろ、十三人が乗り組んだとび船が樫立の沖へ漁に出た。海は静かで網もよく入ったが、船はいつのまにか妙な方角へ流されていく。網を切って引き返そうという船頭に、そこまでせずとも助かると反対する者があり、言い争ううちに、遠くから幻のような船が近づいてきた。甲板では大勢が右往左往し、沈みかけた船の上でもがいているように見えた。船頭が亡魂船だ、泳いで逃げろと叫び、菊池峯太郎ら三人は海へ飛び込んで陸まで泳ぎ着いた。残った太田道之助ら十名は、船もろとも行方を絶ったという。
原典より
自分の所から二十里ほどの後藤野の話。—— 現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・現代民話考(ちくま文庫)・2003年(平成15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・現代民話考(ちくま文庫)・2003年(平成15年))
『現代民話考――偽汽車』は、松谷みよ子が編んだ『現代民話考』全十二巻の第三巻で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。鉄道開通のころ狸や狐が汽車に化けたという偽汽車の話、船幽霊や幽霊船など海の怪談、タクシーの幽霊など自動車や列車の怪談と笑い話を、全国の回答者の聞き書きや新聞・雑誌・書籍から集める。三章それぞれの冒頭に考を置き、話ごとに本文と分布を並べて地名・話者・出典を添える。