駅名表示のない東京駅ホーム
どんな伝承か
六十歳になる九州の母が初めて上京し、博多からひとりで新幹線に乗って東京へ着いた。ところがホームに迎えに来ているはずの娘の姿がない。乗り過ごしたのではないかと心細くなり、居合わせた人に、ここは東京でしょうか、と尋ね、念のためもう一人にも確かめた。確かに東京駅だったが、新幹線のホームには柱にもどこにも、とうきょう、という駅名表示が一つも見当たらなかったのである。十分ほど遅れて駆けつけた娘を見て母は涙ぐみ、東京ならそう書いておいてくれれば着いたという気分になれるのに、とあとで語った。
原典より
自分の所から二十里ほどの後藤野の話。—— 現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・現代民話考(ちくま文庫)・2003年(平成15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・現代民話考(ちくま文庫)・2003年(平成15年))
『現代民話考――偽汽車』は、松谷みよ子が編んだ『現代民話考』全十二巻の第三巻で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。鉄道開通のころ狸や狐が汽車に化けたという偽汽車の話、船幽霊や幽霊船など海の怪談、タクシーの幽霊など自動車や列車の怪談と笑い話を、全国の回答者の聞き書きや新聞・雑誌・書籍から集める。三章それぞれの冒頭に考を置き、話ごとに本文と分布を並べて地名・話者・出典を添える。