靖国神社脇に捨てられた出刃包丁
どんな伝承か
深夜、客を乗せて江東区の方へ走っていると、白ナンバーのセダンが荒っぽく横を追い越していった。靖国神社の脇にさしかかったとき、その車の後部窓から何かが投げ捨てられ、ヘッドライトに光って路上へ落ちた。出刃包丁だと思った運転手は、常盤一丁目で客を降ろすとすぐ引き返し、記憶を頼りに路上を探して、刃の欠けた、血痕らしきものの付いた出刃包丁を拾い上げた。近くを警邏していた巡査に差し出すと、巡査は一歩退いて自分の所轄事項ではないと言い、派出所へ届けると答えた。結局、何の事件も起こらなかった。
原典より
自分の所から二十里ほどの後藤野の話。—— 現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・現代民話考(ちくま文庫)・2003年(平成15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・現代民話考(ちくま文庫)・2003年(平成15年))
『現代民話考――偽汽車』は、松谷みよ子が編んだ『現代民話考』全十二巻の第三巻で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。鉄道開通のころ狸や狐が汽車に化けたという偽汽車の話、船幽霊や幽霊船など海の怪談、タクシーの幽霊など自動車や列車の怪談と笑い話を、全国の回答者の聞き書きや新聞・雑誌・書籍から集める。三章それぞれの冒頭に考を置き、話ごとに本文と分布を並べて地名・話者・出典を添える。