大手町駅から乗った髭剃りの男
どんな伝承か
午前九時すぎ、地下鉄丸ノ内線の大手町駅から五十歳前後の男が乗り込み、小型の電気剃刀でひげを剃りはじめた。すると車内の男性客が、老いも若きも一様に非難と嫌悪の色を浮かべ、にらみつけるという言葉はこれかと思うほどだった。車内で歯を磨きうがいまでする男や、揺れに合わせて器用に眉を描く女など、つわものを見慣れている投稿者にも、男性たちの反応はまるで違って見えた。ふだんは互いに寛容で無関心を装っている男性が、これほど敏感に反応することに驚いたという。
原典より
自分の所から二十里ほどの後藤野の話。—— 現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・現代民話考(ちくま文庫)・2003年(平成15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・現代民話考(ちくま文庫)・2003年(平成15年))
『現代民話考――偽汽車』は、松谷みよ子が編んだ『現代民話考』全十二巻の第三巻で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。鉄道開通のころ狸や狐が汽車に化けたという偽汽車の話、船幽霊や幽霊船など海の怪談、タクシーの幽霊など自動車や列車の怪談と笑い話を、全国の回答者の聞き書きや新聞・雑誌・書籍から集める。三章それぞれの冒頭に考を置き、話ごとに本文と分布を並べて地名・話者・出典を添える。