客を千葉へ連れ帰る個人タクシー
どんな伝承か
東京・銀座の某一流会社に勤めるH氏は、毎週水曜日の夜に会社の飲み友だちと、有楽町のガード下の一杯飲み屋で杯を重ねるのを習慣にしていた。自宅は千葉県船橋市で、仲間三人も帰路が同方向だったので、四人はいつも同じ個人タクシーに乗り、順送りで帰宅することにした。帰途の車内の会話が声高だったため、運転手に事情が筒抜けになった。以後、水曜の晩にいつもの店を出ると、その個人タクシーが待っていて「千葉でしょう、帰りましょう」と声をかけてくる。ヘソを曲げて新宿で飲み直すと宣言すると、今度は有楽町から新宿、千葉と回るようになった。ある水曜の晩には店へ踏み込み、羽交いじめにして千葉へ強制送還してしまったという。
原典より
自分の所から二十里ほどの後藤野の話。—— 現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・現代民話考(ちくま文庫)・2003年(平成15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・現代民話考(ちくま文庫)・2003年(平成15年))
『現代民話考――偽汽車』は、松谷みよ子が編んだ『現代民話考』全十二巻の第三巻で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。鉄道開通のころ狸や狐が汽車に化けたという偽汽車の話、船幽霊や幽霊船など海の怪談、タクシーの幽霊など自動車や列車の怪談と笑い話を、全国の回答者の聞き書きや新聞・雑誌・書籍から集める。三章それぞれの冒頭に考を置き、話ごとに本文と分布を並べて地名・話者・出典を添える。