曾孫の花嫁姿まで押し戻された舟
どんな伝承か
昭和五十四年の春、奥海印寺下条の祖母が吐血して倒れ、寝たきりになった。その頃、途切れ途切れに語ったところによれば、大きな川を舟で渡っていて向こう岸が近づいたとき、息子の忠弘が長い棒で舟を押し返したという。まだこちらへ来なくてよい、と言われて舟はするすると戻ってしまった。祖母は、曾孫の美千子の花嫁姿を見届けてから来いという意味だろう、その土産話を持って行かねばならなくなった、と受け止めた。祖母は年が明ければ九十七歳、実際に美千子の花嫁姿を見、玄孫も抱くことができた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・2003年(平成15年))
『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』は、松谷みよ子が編んだ現代の民話の聞き書き集で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。一九七八年に発刊された『民話の手帖』を通じて全国から寄せられた回答を中心に、臨死体験、死の知らせ、寺へ来る死者、生まれかわりの話を収める。「あの世へ行った話」「死の話」「生まれかわり」の三章の冒頭に編者の論考を置き、細目ごとに所在地・話者・出典を添えた類話を並べる。