月夜に戸をたたいたフミの別れ
どんな伝承か
南佐久郡臼田町の話。明治の末、月の美しい八月のこと。我が家では母と隣のおそのさんが相変わらず仲よく茶を飲み、私や妹たちはそれぞれ勉強していた。その時突然、トントン、またトントンと戸を叩く音がした。音はかなりはっきりしていて皆の耳に届いた。当時は人の家を訪ねる時、夜なら「こんばんは」と声をかけるのが普通であった。障子と戸を開けて音のしたあたりを見たが、人影はおろか猫の子一匹いない。庭をあちこち歩いてみても何もなかった。その深夜、母の実家から、母の弟の妻フミの死を知らせる電報が届いた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・2003年(平成15年))
『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』は、松谷みよ子が編んだ現代の民話の聞き書き集で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。一九七八年に発刊された『民話の手帖』を通じて全国から寄せられた回答を中心に、臨死体験、死の知らせ、寺へ来る死者、生まれかわりの話を収める。「あの世へ行った話」「死の話」「生まれかわり」の三章の冒頭に編者の論考を置き、細目ごとに所在地・話者・出典を添えた類話を並べる。