男として兵隊検査に呼ばれた秋山郷のトメ
どんな伝承か
日華事変のころ、昭和十二年あたりの話だという。秋山郷に住むトメさんという女性のもとへ、兵隊検査の知らせが届いた。女でも兵隊に取られるのかと首をかしげながら出頭したところ、役場の帳面では自分がトメオという男になっていて、たいそう驚いた。当時の秋山郷は秘境と呼ばれるほど交通の不便な土地で、赤ん坊が生まれると郵便配達に頼んで出生届を出してもらう習わしだった。どうやらその折に男と女を取り違えられ、名までトメオとして届けられていたらしい。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 軍隊(松谷みよ子・民話・口承文芸)
『現代民話考 ― 軍隊』は、松谷みよ子が編んだ、軍隊と戦争をめぐる現代の民話の集成である。日本民話の会の雑誌『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞き書きによって寄せられた話をもとに、十五年戦争を中心に徴兵検査から新兵のしごき、戦地、虐殺や飢え、敗戦、収容所、戦犯、軍隊生活の怪談までを収める。巻頭に序文「明日の民話のために」と論考「軍隊考」を置き、十三の部に分けた各話の末に話者と回答者の名と在住地を記す。