黄桜の事
どんな伝承か
桜に黄色い花はないという話になったとき、ある人が、駒込追分の先にある行願寺に黄桜があると言った。山吹や黄梅のような真っ黄色ではないが、白に黄がうつったような一重の花で、寺の名木として近所でももてはやされていた。檀家の一人がひそかに根から出た芽をかき取って四、五度も植えてみたが、育っては枯れ、根づいたものも咲けば白い一重の山桜だった。和尚に頼んで接ぎ木をしても、やはり白い山桜が咲いた。ところが寺の中で根分けした桜は黄色く咲いたという。土地によるのか、不思議なことだと語られた。その檀家は笛吹きの春日市右衛門だという。
原典より
寺内にて根分せし桜は矢張黄色にてありし由。—— 耳嚢(みみぶくろ)(根岸鎮衛・江戸随筆・怪異・1809年(文化6年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
耳嚢(みみぶくろ)(根岸鎮衛・江戸随筆・怪異・1809年(文化6年))
『耳嚢(みみぶくろ)』は、根岸鎮衛(守信)が勤めの合間に古老や訪ねて来た人から聞いた話を書き留め、佐渡在勤のころからまとめ直して文化六年仲秋に結びを付した随筆である。武家・町人の逸話や奇談に加え、狐・狸・幽霊・妖獣などの怪異、羽蟻や虫歯・ものもらいを治めるまじない、薬の秘法を、一項ずつ題を掲げて記す。この本文は著者の自叙と巻之一から巻之十まで(巻之四を欠く)の抜粋で、巻末に著者の結びと『耳嚢副言』の一部を置く。