愛宕寺の梛の枝と精霊迎え
どんな伝承か
熊野や伊豆山に詣でた人が竹柏の葉を、稲荷山に登った人が杉の小枝を持ち帰る風習は古くからある。神霊と死者の霊を一緒にできないとしても、もう一つの際立った例が京都の愛宕寺の梛の枝である。この寺には小野篁が地獄へ通った穴の口があるという俗伝があり、わずかな芝生を六道の辻に見立てていた。京の町人は近世まで十五日にこの寺へ参り、梛の枝を持ち帰ることを、精霊を迎えて来ることになぞらえた。神の霊も死者の魂も、ひとしく木の枝に宿って運ばれると考えられていたのである。
原典より
此の十五日に京の町人は近世に至る迄此の寺に参じて、梛の枝を持って帰るのを、精霊を迎へて来るのだとなぞらへてゐた。—— 幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年))
『幽霊は語る』は、梶天真が編んだ幽霊譚と幽霊論の集成で、昭和十三年に文明社から出た。新聞・雑誌の記事や井上円了・柳田國男・高峰博らの所説、古典の文を出典を添えて引き、葬送の習俗や布哇の霊魂観から説く幽霊思想、幻覚や網膜による説明、乃木大将が見た我が子の幽霊などの実話を集める。三篇に分かれ、第二篇は男女の幽霊・怨霊・生霊・小児の見た幽霊・前知らせなど八項、第三篇は幽霊写真・化物屋敷・霊界通信を扱い、巻末を夕張と筑前の幽霊問答で結ぶ。