清涼殿に現れた琵琶博士の霊
どんな伝承か
村上天皇の治世の応和のころ、十五夜の月が白く冴え、涼しい風の吹く夜に、天皇が清涼殿で名器の琵琶玄象を弾いていると、ぼんやりとした姿の者が御前に進み出て、気高い声で見事に唱歌を奏でた。天皇が琵琶を置いて、何者か、どこから来たのかと問うと、その者は震えながら、自分は醍醐天皇に三つの曲を伝えた琵琶の博士だが、秘曲を一つ伝え残した罪で魔道に沈んでいると答えた。今宵の撥音があまりに見事なので参ったと言い、この曲を授けて成仏したいと申し出ると、御前の琵琶青山を取って調子を整え、その秘曲を天皇に授けたという。
原典より
村上の聖代、應和の比、三五夜中新月の色白く冴え、涼風颯々たりし夜に、清涼殿にして玄象選ばされける、時に姿の朧くなる者、御前に参じて、優に氣高き聲を以て、唱歌を目出度う奏ぜる…—— 幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年))
『幽霊は語る』は、梶天真が編んだ幽霊譚と幽霊論の集成で、昭和十三年に文明社から出た。新聞・雑誌の記事や井上円了・柳田國男・高峰博らの所説、古典の文を出典を添えて引き、葬送の習俗や布哇の霊魂観から説く幽霊思想、幻覚や網膜による説明、乃木大将が見た我が子の幽霊などの実話を集める。三篇に分かれ、第二篇は男女の幽霊・怨霊・生霊・小児の見た幽霊・前知らせなど八項、第三篇は幽霊写真・化物屋敷・霊界通信を扱い、巻末を夕張と筑前の幽霊問答で結ぶ。