隠元狸に引き裂かれた婆さん
どんな伝承か
高須の隠元はタヌキ合戦で金長方の旗頭として名をはせた狸で、沖洲町には今も生きていると信じる人がいるという。藩政時代、水士の家の婆さんが孫を背負って乳もらいに出ると、道をまたいで両側の家に足をかけた大入道が立っていた。婆さんは詫びを言って股の下をくぐり抜け、帰り道には隠元をあざける言葉を吐いた。その夜、雨戸をたたく音に腹を立てた婆さんは、爺さんの制止を聞かずに飛び出したきり戻らず、翌朝、沖洲の北端に近い大ムクの木の枝に、両足から二つに裂かれた姿で掛けられていたという。
原典より
ある夜も、例のとおり、その孫をおぶって、乳をもらう家へ行きかけたところ、林という家の築山に片足をふみ、道をまたいでその向側の家へ片足をかけた大入道がぐっと立っていた。—— 阿波の怪談(横山春陽・郷土怪談・民俗・1958年(昭和33年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
阿波の怪談(横山春陽・郷土怪談・民俗・1958年(昭和33年))
『阿波の怪談』は、横山春陽が昭和三十三年に編み、徳島新聞出版部から発行した郷土の怪談集である。徳島県の各地と土佐との国境の山中に伝わる山女郎、淵や池の主、カッパ、亡霊、火の玉、タヌキやキツネ、大ジャの話を、平安朝の言い伝えから藩政期、明治・大正、昭和の出来事まで、編者が古老に聞き、書物から拾って題ごとに並べる。おわりにでカッパやヘビの話の多い地域や海の話の少なさについて記す。