夜は正気に返り昼に踊り出す乱心者
どんな伝承か
岩原村から藩へ届いた最初の報告では、乱心した者は十七人に増え、病人たちは長丞が施主となって氏神の脇に小さな堂を建てれば鎮まると言っていた。使いの者の口上によると、不思議なことに乱心者は夜になるとすっかり正気に返って仕事も話もする。ところが翌朝野良に出ても、四ツ時になると誰からともなく道端に集まり、惣老や組頭の家へ押しかけて歌い踊り、源平の昔物語を語り、犬神が大勢来たと叫ぶのだった。顔ぶれは毎日増える一方だったという。
原典より
不思議なことには、亂心者一同、夜分になると一向正氣に返り、平気で仕事もすれば、談話も交へるのであります。—— 二つの怪奇な心霊現象(浅野和三郎・1940年(昭和15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
二つの怪奇な心霊現象(浅野和三郎・1940年(昭和15年))
『二つの怪奇な心霊現象』は、浅野和三郎が著し、心霊科学研究会が昭和十五年に発行した記録で、昭和二十七年に再版された。前篇は弘化元年、土佐国長岡郡豊永郷岩原村で村人六十四人が狂乱し、祈禱が効かず藩の役人が空鉄砲と犬で取り押さえた事件を、野島通玄の記録『甲辰奇怪記』の現代語訳で紹介する。後篇は山梨県北巨摩郡穂坂村の旧家の娘かね代に曾祖父横森市兵衛の霊が懸かり、盗まれた不動明王の掛軸が戻った因縁を、著者の調査と甲州訪問記を添えて述べる。