立山の亡者宿(begins)
どんな伝承か
下谷長者町の裏長屋に住む消火夫の小八は、亡くなった女房に逢いたい一心で、越中立山の麓にあるという亡者宿を訪ねた。回向料一両を主翁に渡し、湯で身を清めてから精進の膳を食べ、言葉をかけてはならぬと戒められて休んだ。夜明け前、案内の男とともに提灯を頼りに山路を登ってゆくと、谷川にかけた土橋の下で水音が響き、路の曲がり目からは黎明の光を受けた立山の主峰が尖った輪郭を見せていた。小八は懐かしい女房に会える喜びで胸を一杯にしながら、大きな谷間へと歩を進めていった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の怪談(二)(田中貢太郎・日本の怪談シリーズ)
『日本の怪談(二)』は、田中貢太郎が著した怪談・奇談の短編集である。著者の郷里である土佐の高岡郡や長岡郡の山村の話を多く含み、越中の放生津や立山、利根川の河口、館林の城下、江戸の碑文谷などを舞台に、蟹や蛇の怪、鮭の祟り、山姑、亡者宿、切支丹の処刑にまつわる怪異を物語の形で書く。「蟹の怪」から「鶏物語」まで二十八篇を収め、友人から聞いた話として語る篇もある。